構造解析のプロセス


構造解析のプロセス

タンパク質の立体構造を知るためには、X線結晶構造解析、NMR装置による解析、電子顕微鏡による解析などいくつかの方法があります。 播磨研究所では、このうち放射光を使ったX線結晶解析によるタンパク質の立体構造の解析を主に推進しています。タンパク質X線結晶構造解析は、一連の実験研究のバランスの取れた総合的機能の統合によってのみ可能です。

ここにそのプロセスを紹介します。

cDNAクローニングと発現プラスミドの構築
プラスミドのアガロースゲルの写真
解析対象となるタンパク質を記述した遺伝子(ORF)領域を、cDNAライブラリーなどから容易にとりだすことができます。これは、ゲノム科学の成果です。



タンパク質の発現
タンパク質発現用大腸菌の調整
解析に必要なタンパク質は、発現プラスミドを使って大腸菌などの生物の細胞や、それを模倣した無細胞系によって作ります。 正しく折りたたまれたタンパク質が、効率よく大量に作られるように、さまざまな条件を検索し、確立した条件でタンパク質を大量発現させます。 また、目的のタンパク質の発現や精製を容易にするためには、遺伝子工学手法やタンパク質工学手法が大変重要になります。



タンパク質の精製
カラムクロマトグラフィーによる
タンパク質精製
SDS-PAGE(内挿図)
多くのタンパク質が混ざった中から、目的のタンパク質を、その物理的性質,化学的性質,そのかたちなどの違いに応じて選択し、条件決めをした「カラムクロマトグラフィー」により、特定のタンパク質を抽出します。(タンパク質はSDS-PAGEなどで確認できます。)



タンパク質の結晶化
ロボットによって得られた結晶
市販の結晶化ロボットの例

結晶は、タンパク質が規則的に3次元的に整列してできます。タンパク質をある特定の条件に置くと、結晶として成長します。 結晶構造解析に適した質の良い結晶を得る結晶化条件の確立には、膨大な条件を試してみることが必要で、その効率化のため、 自動化した結晶化ロボットシステムの開発も重要な課題です。



結晶からの回折像と回折データ収集
理研構造化ビームラインI (BL45XU)
ビームライン実験ハッチ内のデータ収集装置 (BL45XU-PX)
タンパク質結晶からの回折像

良質のタンパク質結晶にX線を当てると、タンパク質を構成する原子の周りにある電子によりX線が散乱され、きれいに、たくさん並んだタンパク質からのX線散乱同士が干渉することにより回折像が獲られます。 高い精度で解析を行うには、質の良い結晶と強く細いX線から得られる像が必要です。SPring-8のビームラインは、タンパク質結晶構造解析に適した安定した質の高いX線を提供します。



タンパク質構造の決定
電子密度図
得られた回折データを基にして、MAD法などによりこれらの回折点の位相が決まると電子の分布(電子密度図)を計算することができます。電子密度は分子のかたちを表しています。コンピュータグラフィックスにより3次元表示させた図を見ながら、タンパク質の構造モデルを作ります。作られたモデルは、コンピュータによる計算によってより精密に決められます。図では、水色と赤の網で電子密度を、その網の中に精密化したタンパク質のモデルが黄色などの線で表されています。



立体構造情報の蓄積
網膜にある視物質ウシ・ロドプシン
得られた構造情報は、データベースとして蓄積されていきます。
個々のタンパク質の性質を調べることはもちろん、異なるタンパク質の間での比較や、さまざまな応用研究に利用されます。
また、データの増大により、類似性の高いアミノ酸配列を持ったタンパク質でおおよその構造を推測することができ、将来は蓄積された立体構造情報とモデルを作るソフトウェアの開発・改良と、更なるコンピュータの発達により現存する個々のタンパク質を実験で解析しなくても 精度のよいモデルが得られることが期待できます。